「ぬかるみの恐怖」とは、ロシアをバイクで走った人達の共通の言葉だ。この恐怖は日本に居ながらなかなか言葉では表現できない。
本当に恐怖だったのはウラル山脈越えでの道路だった。全く人気のない山奥の森林地帯で、道路の状況は写真のような生ぬるいものではない。
森林を切り開いてブルドーザーが木のカブを押しのけただけの泥道で、そこは雨が降ってドロドロにぬかるんでいた。車高の高いトラックが通った
わだちだけがあり、そこを通るしかないが、わだちに入ると両シリンダーが左右の泥にのし上がり、後輪は空転してしまう。
しかも時間は夜の8時過ぎ、今にも雨は降り出しそう。通る車など全くないし、前後100キロほど人家も有りそうではない。バイクを降りても靴に泥が
くっついて歩くことも出来ない。この広い広い大地の中の人間一人なんて虫けら一匹みたいなものだ。行き倒れたって白骨死体になって見つかれば
良い方だ。そんなことを考えながら恐怖心に耐えて泥と格闘した。